保科研究室では

 誘電体・強誘電体・圧電体・イオン伝導体等のフォノンが関与する物質群を対象として、バルク・単結晶・薄膜合成、計算科学・データ科学、高周波・分光測定等々の研究を行っています。

研究内容の目次

誘電物性の起源解明テラヘルツエリプソメトリーによる誘電体材料のフォノン解析
チタン酸バリウム系セラミックスのサイズ効果
誘電体材料に導入した欠陥の効果
フレクソエレエクトリック効果の検証
機械学習を活用した材料科学
新材料探索シリケート化合物
分子性強誘電体
ウルツァイト型強誘電体
タングステンブロンズ型反強誘電体
プロセス開拓ペロブスカイト型酸化物の室温合成
積層化による強誘電相の安定化
コールドシンタリングプロセス(CSP)を用いた低温焼結
単結晶の無機転写膜の作製プロセス
エネルギー材料開発リチウムイオン二次電池の劣化機構の理解
新規酸化物Liイオン伝導体の開発

【誘電物性の起源解明】に関する研究

テラヘルツエリプソメトリーによる誘電体材料のフォノン解析

 高誘電率材料の多くは誘電率がイオン分極の大きさによって決まっています。イオン分極は格子振動(フォノン)によって決まる分極であるため、誘電特性を結晶科学的に理解するには、イオン分極が観測できるテラヘルツ(THz)領域の複素誘電率を測定することが非常に重要です。 我々の研究室はTHz領域の複素誘電率を直接測定することができる装置、テラヘルツエリプソメータを開発しました。この装置を用いてフォノンと誘電特性の関係を明らかにし、その知見に基づく新規材料の設計を行っています。 
 また、第6世代移動体通信システム(6G)用の材料を開発する上でも、重要な測定技術として期待されます。


遠赤外分光エリプソメトリー

(a) テラヘルツエリプソメータの外観図, (b) テラヘルツ領域でのSrTiO3単結晶の複素誘電率測定

チタン酸バリウム系セラミックスのサイズ効果

 チタン酸バリウム(BaTiO3)系セラミックスの誘電・圧電特性は、セラミックスを構成する粒子のサイズによって変化することが知られており、この現象は『サイズ効果』と呼ばれています。我々のグループでは、サイズ効果の機構解明と、サイズ効果に基づく次世代の材料設計を目指して研究を行なっています。


チタン酸バリウム系セラミックスのサイズ効果画像

  (a) チタン酸バリウムの粒径制御手法, (b) チタン酸バリウムの粒径と比誘電率(圧電定数)の関係

誘電体材料に導入した欠陥の効果

 我々の研究室では誘電体材料の誘電物性制御とその発現原理の理解に向け、誘電体材料へのカチオンまたはアニオン置換に関する研究をこれまで行ってきました。最近は、カチオンまたはアニオンが一部欠損した状態を作り出し、その欠陥が誘電物性へ及ぼす影響を調査しています。特に、電荷符号が異なる複数の欠陥を強誘電体に導入すると、これらの欠陥が会合して生じる欠陥双極子が自発分極と相互作用するため誘電特性が大きく変化します。第一原理計算等を活用しながら欠陥化学に基づきチタン酸バリウム系材料の特性を高度に制御し、新たな利用方法を模索しています。


欠陥双極子

アクセプタをドープしたBaTiO3中の欠陥双極子および自発分極との相互作用

フレクソエレエクトリック効果の検証

 圧電体は電気を機械変位に変換できる材料で、精密な動作が求められる分野で活躍しています。圧電効果を発現する否かは、その材料の結晶構造が属する空間群により決定されます。一方、我々が注目しているフレクソエレクトリック効果は、歪み勾配を与えることで全ての誘電体に発現する効果です。発生する電荷が小さい(フレクソエレクトリック係数が小さい)ことから理論提唱当初はあまり注目されていませんでしたが、ペロブスカイト型酸化物の中にはフレクソエレクトリック係数が非常に大きいものが存在し、注目が集まっています。本研究室では、巨大変位を与えるためにフレキシブルな雲母基板上に成膜した(Ba,Sr)TiO3単結晶薄膜を作製し、そのフレクソエレクトリック係数を評価しています。


フレクソ

(a) フレキシブルな雲母基板上に作製した薄膜, (b) 自作の変位発生装置

機械学習を活用した材料科学

 材料研究の分野でも機械学習の活用が進んでいます。これまでの材料研究は、長年の経験により培われた勘がものを言う世界でしたが、ビックデータを用いた機械学習により勘や経験を必要としない材料科学(マテリアルズインフォマティクス)が可能となり始めています。我々の研究室では機械学習を活用し、人間では到底扱えない次元の要素群から生じる現象(強誘電特性や非線形圧電応答など)の決定因子を抽出し、現象の理解や応用に向けたアプローチを進めています。


機械学習

(a) 強誘電体研究におけるマテリアルズインフォマティクス利用したイメージ図,
(b) 機械学習により予測したキュリー温度の実測値との比較


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【新材料探索】に関する研究

シリケート化合物

 強誘電体材料は外場によって自発分極が反転可能という特性を活かし、メモリ材料に応用されています。強誘電体材料にはペロブスカイト型構造を有する材料がよく用いられますが、既往材料では種々の性能限界を迎え始めており、新規の強誘電体材料を発見する必要に迫られています。我々の研究室ではKNbSi2O7というシリケート化合物に着目し、自己フラックス法により単結晶試料を合成し、その強誘電性を初めて明らかにしました。また、強誘電性の指標である自発分極値が~20 μC/cm2程度だということもわかり、既往材料で最も有名なチタン酸バリウム(25 μC/cm2)に匹敵しうることを確かめています。


シリケート強誘電体

(a) KNbSi2O7(KNS)の結晶構造, (b) 作製したKNS系単結晶の外観, (c) 部分置換したKNSの強誘電ヒステリシス

分子性強誘電体

 有望な新規圧電体は長年、無機酸化物を中心に探索されてきました。本研究室では、圧電体探索の新鉱脈として有機無機ハイブリッドである分子性強誘電体にも注目しています。この物質群の中には、高い圧電定数と低い誘電率を有し、次世代のセンサーネットワークやエナジーハーベスティング技術等で活躍するような材料が数多く存在します。我々のグループでは、TMCM-MnCl3等の分子性強誘電体を簡便かつ高速に合成する手法を新たに開発し、新規組成の探索にも挑戦しています。


分子性強誘電体

(a) 分子性強誘電体TMCM-MnCl3の結晶構造, (b) 分極反転の模式図,
(c) アンチソルベント法により合成したTMCM-MnCl3

ウルツァイト型強誘電体

 ウルツァイト型化合物は分極反転ができない材料だと認識されていました。しかし、2019年のScドープAlNでの分極反転の報告をきっかけに、強誘電体材料としてのパラダイムシフトが生じました。現在、強誘電体研究の分野ではAlNを中心としたウルツァイト型強誘電体研究が盛んに行われています。我々は三元系ウルツァイト型化合物に着目し、β-LiGaO2について研究しています。第一原理計算を用いたアプローチと、薄膜作製を組み合わせることで強誘電性の発現を示唆する結果を世界で初めて観察しました。最近は、元素置換による分極反転時の反転障壁高さの評価や、薄膜の膜品質向上に向けた研究に邁進しています。


ウルツァイト型強誘電体

(a) LiGaO2の結晶構造, (b) 分極反転障壁高さの評価に関する第一原理計算結果,
(c) パルスレーザー堆積法の装置と薄膜作製時の写真

タングステンブロンズ型反強誘電体

 反強誘電体は自発分極が反並行に整列した構造を持ち、電界を印加することで自発分極が整列し大きく分極が増加する特性を持つ材料群です。このようなユニークな誘電特性は、エネルギー貯蔵素子や中高電圧用のセラミックコンデンサとしての応用が期待されています。しかし、現在のところ反強誘電性を示すことが知られている物質は限られており、特性の高い新物質の開拓が重要となっています。
 当研究室ではタングステンブロンズ型反強誘電体材料に着目して研究を始めております。元素置換によって室温での反強誘電性発現に成功し、既報のペロブスカイト型反強誘電体に匹敵する高いエネルギー貯蔵特性が得られることを明らかにしました。


タングステンブロンズ型反強誘電体

(a) タングステンブロンズ型化合物K2NdNb5O15の結晶構造,
(b) K2NdNb5O15系化合物の室温における分極-電界曲線の測定結果


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【プロセス開拓】に関する研究

ペロブスカイト型酸化物の室温合成

 無機材料の粉体は一般的に焼成と呼ばれる加熱工程を経て合成されますが、産業スケールではコストや消費エネルギーの低減するために焼成プロセスをできるだけ低温化することが求められています。本研究室では、液相合成によるペロブスカイト型酸化物の室温合成にチャレンジし、BaTiO3や元素置換したSrTiO3の合成に成功しています。また、低温合成のメリットを生かして、コアシェル構造(中心部と外周部で組成が異なる構造)を有する粒子の合成にも成功しました。


室温合成

  (a) 室温で合成したBaTiO3, (b) 電子顕微鏡観察像, (c) コアシェル構造の模式図.

積層化による強誘電相の安定化

 材料が熱力学的に平衡な状態にあれば、その材料が取りうる結晶構造の中で最もエネルギー的に安定となる構造が出現します。一方で、常圧・常温下では最安定ではないが、ある条件下においては最も安定となる相のことを準安定相と呼びます。準安定相として存在する物質は未調査のものが非常に多く、材料の可能性をさらに広げるブルーオーシャンです。
 実用化目前であるハフニア基強誘電体材料も準安定相が強誘電性を発現します。そのため、強誘電性を有する準安定相を”如何にして安定化させるか”が鍵となります。我々のグループではストレスエンジニアリングの手法を用い、積層膜を作製することで強誘電相の安定化に成功しました。


積層膜

(a) 作製した積層膜の原子スケールでの元素マッピング結果, (b) 作製した積層膜の圧電応答顕微鏡による測定結果

コールドシンタリングプロセス(CSP)を用いた低温焼結

 セラミックスを作製するためには高温での焼成が不可欠です。そのため、高温で分解してしまうような材料をセラミックス化することは困難とされてきました。理論や第一原理計算結果から優れた特性が予見されている材料でも、緻密体が得られなければ電気物性に関する測定は行えず、材料評価が進みません。それら問題を解決する手段として、我々はコールドシンタリングプロセスに注目しています。このプロセスでは粉体の成形時に溶媒を導入し、加圧・加熱により溶解・再析出が生じる現象を利用し、300度以下の温度で緻密体を得ることが可能です。本プロセスを用いることにより、800度程度で分解してしまうα-LiAlO2について、相対密度90%以上の緻密体を得ることに成功しました。


CSP

(a) 装置と(b) コールドシンタリングプロセスの模式図, (c) コールドシンタリングプロセスを用いて作製した試料の写真と電子顕微鏡観察像.

単結晶の無機転写膜の作製プロセス

 電子デバイスの急速な小型化により電子機器は据置形態からポータブル可能となり、今やモバイル端末の普及率は90%を超えています。次世代デバイスにはウェアラブルデバイスが期待されていますが、電子回路内で極めて重要な役割を担う無機材料は高温での焼成を必要とする都合上、高温で分解する有機フレキシブル基板と相性が悪いという課題があります。本研究室では無機単結晶基板上に作製した目的膜を転写するプロセスにより、無機薄膜をフレキシブル基板上へ転写することを試みました。この際、目的層の下部に犠牲層を導入しますが、犠牲層の格子定数に着目することで大面積の単結晶転写に成功しました。


自立膜

(a) 単結晶自立膜を作製するプロセス, (b) 作製したBaTiO3自立膜の写真とSEM像


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【エネルギー材料開発】に関する研究

リチウムイオン二次電池の劣化機構の理解

 全世界で注目されている「カーボンニュートラル社会」の実現には、高性能な二次電池が必要不可欠です。現在最も普及している二次電池はリチウムイオン二次電池ですが、開発から30年が経過した現在でもその複雑な内部反応の理解は完全ではありません。我々は界面で生じる副反応の調査のため、結晶方位の揃った単結晶エピタキシャル薄膜電極を用い、充放電後を行った後の薄膜表面の評価や、人工的な異種接合界面を作製することで電池の劣化機構を明らかにしようとしています。


LIB界面

(a) マイクロパッドを堆積させたエピタキシャル薄膜電極の充放電後表面,
(b) マイクロパッドからの距離を変えた時の断面走査方電子顕微鏡観察像

新規酸化物Liイオン伝導体の開発

 既往のリチウムイオン二次電池において最も深刻な課題に安全性が低いこと挙げられます。これは可燃性の有機電解質を利用しているためであり、電解質を無機固体に置換した全固体電池の開発が世界各地で精力的に進められています。そのためには、優れた性能を有するLiイオン伝導体(固体電解質)の開発が必須です。我々は大気暴露化でも非常に安定な酸化物に注目し、新規固体電解質探索を行っています。Liイオン伝導は結晶構造と密接な関係がある点に着目し、Liイオンと電子両方を伝導する”電極材料”の結晶構造を元に、元素置換により電子伝導のみを排除することで優れた固体電解質の開発を行っています。


固体電解質

電極材料の結晶構造を元にLiイオン伝導体を設計するアプローチと実際に作製したサンプルのイオン伝導度


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